ヴァレンティノ(VALENTINO)の共同クリエイティブ・ディレクター、直近9年間はディオールのウィメンズを指揮してきたマリア・グラツィア・キウリにとって、フェンディ(FENDI)はものづくりの基礎を学んだ原点ともいえる存在だ。1989年、24歳でアクセサリーデザイナーとして入社し、創業家の5人姉妹のパオラ、アンナ、フランカ、カルラ、アルダの元でキャリアをスタートした経験は、今回のコレクションにおける重要な着想源となっている。
デビューコレクションで掲げたキーワードは「Less I, more us(私よりも、私たち)」。これは単なるスローガンではなく、キウリ自身の仕事の流儀を示す言葉だ。ブランドを支える多くの人々と一緒に働くことの価値、共有される目的と欲望、他者や世界への理解と受容。その姿勢が、コレクション全体で貫かれている。
刷新されたロゴ
就任後、キウリはイタリアのグラフィックデザイナー、レオナルド・ソンノリ(Leonardo Sonnoli)に依頼し、「ダブルF」をはじめとするブランドロゴを刷新。フォントはやや丸みを帯び、ROMAの表記を省いたことで、よりミニマルな印象へと変化した。
連帯のワードローブ
コレクションを具体的に印象づけたのは、ブラックを基調としたセットアップだ。ウィメンズを中心に手掛けてきたキウリがメンズウェアを発表するのも約10年ぶりのことだが、両者の境界はほとんど感じられない。男女共通のデザインで歩く姿が、コレクション全体の一体感をつくり出していた。
カラーパレットはフェンディを象徴するイエローを差し色にモノトーンを多用し、制服やスポーツのユニフォームを思わせる佇まいがコレクション全体に通底。ワークウェアを想起させるオールインワンやデニムといった実用性の高いアイテムも目を引いた。
なかでもファーで仕立てられたフットボールマフラーは象徴的で、“Five Sisters(5人姉妹)”の文字がチームロゴのように配され、「チームの一員である」という感覚を強調。「私よりも、私たち」という言葉は、服そのものの構造と在り方として体現されていた。
全体に配された白い襟は5人姉妹が着用していた白襟に由来するというが、長年フェンディでデザインを手がけたカール・ラガーフェルドの存在も思い起こさせる。
キウリが得意とする繊細なレース使いのドレスも健在で、ローマの壁に刻まれた文字から引用されたという三角の楔モチーフも印象的だった。
イタリアの伝説的アーティスト、ミレッラ・ベンティヴォリオとの対話
今季を象徴するトピックの一つが、イタリアの伝説的アーティスト、ミレッラ・ベンティヴォリオ(Mirella Bentivoglio)のアーカイブとのコラボレーションだ。コンクリート・ポエトリーや視覚詩の先駆者として知られる彼女は、言葉を視覚へ、オブジェクトへ、そして身体へと変換することを生涯のテーマとしてきた。
フェンディは1970年代初頭にベンティヴォリオ自身がデザインしたジュエリーを、限定エディションとして制作。Tシャツなどのプリントにも、ベンティヴォリオの言葉遊びが反映され、言語と身体の関係性がファッションとして再解釈されている。
サグ・ナポリとのステートメント
過去にディオールでも協業経験のあるナポリ出身の多分野アーティスト、サグ・ナポリ(SAGG Napoli)とのコラボレーション。Tシャツなどのアイテムには、“自分を失わずに、他者と共すること”を意味するステートメントが配されている。
「Rooted but not stuck(根ざしているが、とらわれていない)」
「Loyal but not obedient(忠実だが、盲従ではない)」
「Volcanic but not destructive(情熱的だが、破壊的ではない)」
「Committed but not consumed(献身的だが、消費されない)」
これらは、競技アーチェリーの実践者でもあるサグ・ナポリが競技を通じて体得した哲学であり、「真の意味でチームの一員となるためには、まず個人として心のバランスが取れていることが不可欠」というメッセージだという。この考えは、フェンディが掲げる“シスターフッド”に、より深みのある解釈を与えている。
新たな毛皮へのアプローチ「Echo of Love」
歴史的にファーを強みとしてきたブランドとして今季も、シアリングをはじめ、フォックスやミンクなどのリアルファーを用いたピースを発表した。その一方で、新たな取り組みとして打ち出されたのが、ファーのリモデリングプロジェクト「Echo of Love」だ。
クローゼットに眠るヴィンテージファーを解体し、クチュールの手法で現代の感性に合わせて再構築する取り組みで、フェンディ以外のブランドが手がけたファーも修復やリメイクを受け付けるという。その工程は新品の仕立て以上の職人技を要し、倫理性を意識した新たな取り組みともいえる。
アーカイブバッグのアップデート
アイコンバッグの「バゲット」は、アーカイブをヒントに種類豊富に登場。オリジナルの品番「26424」がデザインとしてもバッグにあしらわれ、調整可能なストラップが長くあしらわれたデザインに。さらにアーカイブのトートバッグも新しいロゴとともに復活した。
キウリらしい知的な表現と今後への期待
ディオール時代から一貫して掲げてきたフェミニズムの精神を、女性たちが築いてきたフェンディの歴史と重ね合わせ、女性アーティストとの協業という形で体現した点は、キウリらしい知的なアプローチといえる。また、ジェンダーを超えて共有されるアイテムの数々は、連帯という思想を、服の構造そのものに落とし込んでいた。
キャッチーな仕掛けよりも「着ること」を優先した洗練されたデザイン、完成度の高いバッグやシューズには、アクセサリーデザイナーとしてキャリアをスタートさせ、ディオールでも数々のヒット作を生み出してきたキウリの強みが色濃く表れている。一方で、リアリティを重視するこのアプローチが、顧客の感情をどこまで高揚させられるのか。その熱量を生み出せるかどうかが、今後のフェンディにとっての焦点となりそうだ。
Photos: Courtesy of FENDI Text: Mami Osugi




















